MESHを使ってホームセキュリティを実現する
中学校の技術科の授業で「MESHを使ってホームセキュリティを実現する」という授業を実施された和歌山大学教育学部附属中学校の一色先生に、授業設計の背景や、実際にどのような授業が展開されたのかを伺いました。
- 先生:和歌山大学教育学部附属中学校 技術科教諭 一色 秀之
- 生徒:35人学級(4人グループ×8、3人グループ×1)
- 場所:和歌山大学教育学部附属中学校
- 実施時間:9時間分
今回の授業を実施した背景は?
「第43回 全日本教育工学研究協議会(JAET)全国大会 和歌山大会での公開授業が学期の途中に予定されていました。2020年度に小学校においてプログラミング教育が必修化とされ、また中学校技術科教育でのプログラミング教育についても注目されるという動きが出ていることもあって、プログラミング関連で授業を提供してほしいという依頼を受けました。教育向けのプログラミングツールもいろいろありますが、MESHをその際に紹介いただき、まだ中学の技術・家庭で私の知る限りでは活用事例がなかったので、誰もやっていないことを実施したく、MESHを採用することに決めました。」
授業テーマはどのように決めましたか?
「『プログラムによる計測・制御』という単元として授業を実施しました。センサを用いて計測し、それらの情報を元に必要とする制御をするということは今の生活では様々な製品に組み込まれていて、その点を生徒たちにも必ず説明しています。それだけで終わらずに、実際にMESHというキットを使って計測・制御という過程を体験し、『こんなこともできるんだ』、『こういう風にやるんだ』ということを自ら発見してほしいと思いました。また、計測・制御というテーマで何を作るかということを考えたときに、計測・制御という機能は、身近なところでいえば安心・安全というテーマでよく活用されていますので、まずはホームセキュリティというテーマに設定しました。」
この授業のねらいは?
「今現在の技術がどのように活用されているのか、生徒自身が適切に評価し、自分たちの生活に転用できるような力を育てていくことです。そもそも、技術・家庭は生活を意識した科目だと思いますので、技術を活用し、生活を豊かにしていくことをゴールに設けたいというのが、私の考えの前提としてありました。現行の学習指導要領では、技術科は産業技術、家庭は消費生活がキーワードになると思いますが、以前だと技術科は生活技術、家庭は家庭生活という、『生活』がキーワードになっていたと思っています。」
用意した機材と授業の様子
使用機材/素材 | |
MESH | |
MESH以外 |
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授業日程 | |
1~3時間目 |
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4時間目 |
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5時間目 |
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6~8時間目 |
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9時間目 |
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どんなことを工夫しましたか?
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使える材料はどんどん使い、授業に活かす
「あまり附属学校だからと突出したことをするのではなく、教科書の指導内容に準拠して、あまり飛び越えない、ジャンプしないというところで普段から研究授業を組み立てています。それで生徒たちに『あーそうなんだ』という発見をしてもらえればいいかなと。そのために、授業で効果的に使えそうだと思ったものは全部利用するという感じでやっています。今回のMESHも、MESHのアルゴリズムを整理するためにカード化したPDF(MESHデザインパターンカード)を生徒に配布しましたが、プログラミングの処理を一つずつのステップに区切って思考させるには大変便利だなと感じました。」
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プログラミングを行う前に、思考の整理を行う
「プログラミングを学んだ生徒達が、将来どれぐらいプログラミングが必要な職業に就くかは分かりませんが、彼ら彼女らが社会に出たときに、改善・解決しなければならない答えがない問題に出会うことは多々あると思います。そのときに、課題が何なのか、またそれに対しての対策はどのようなことが考えられるのか、解決策を模索し実行するという段取りは、プログラミングに限った話ではないと私は思います。その「段取力」をつけるために、まずは表の形で課題を整理する、最近流行っているシンキングツールみたいなところまではいかないですけど、いきなりプログラミングに入るよりは、一個ずつ段階を踏ませたいと考えています。何が問題で、何を私たちはゴール・目標にしているのかを明らかにし、思考を整理するとともに記述化して、その表で整理したことをプログラムに落とす。そしてその流れの中で、MESHデザインパターンカードを使用して、処理の流れを整理してもらいました。あのカードはほとんどMESH機能を表現しているので、言わば、プログラミングを実施する場が机上にあるか、iPad上にあるかという違いでしかなかったんです。」
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グループではなく会社、発表会ではなく商品説明会
「ホームオートメーション、ホームセキュリティを考えるときに、セコムさんやALSOKさんのホームページを生徒に見てもらいました。ホームセキュリティと一口に言っても、一人暮らしのお年寄りの方、子どもの留守番、常時留守にしている家庭など、誰をホームセキュリティの対象にしているのかという情報がたくさん載っていたので、そのような情報を参考に、誰に向けた解決策なのかを検討してもいました。
このように課題の抽出方法の参考情報を見せた後は、生徒たちのアウトプットに対するモチベーションを高めることを目的に、グループワークの班を会社と見立てて、会社名を決めるところから始めてもらいました。最後の発表会も製品発表会と称しまして、ただ目的なく伝えるのではなく、自分たち会社の商品をアピールするという趣旨にしました。結果として、その方が生徒のプレゼンにも熱がこもっていました。」
今回授業でMESHを使用された感想を教えてください
「技術科の教員仲間とMESHを用いた授業のデザインについて話し合ったとき、技術科としては、MESHを使うならGPIOを通じてモータや何らかの動きを制御するのが一番の肝であろうという結論になりました。しかし、実際私がMESHを試して授業をしようと考えたときに、GPIOブロックとモータドライバなどを用いて制御しようと考えると、他のロボット教材もそうですが、技術科の限られた時間の中ではどうしても収まりきらないという不安がありました。そういった難しさがある中で、今回はあえてGPIOブロックを使わないという視点で授業を設計しましたが、実際今回のような授業が実施できて、中学校でも活用できるという自信につながりました。
さらに内容を深めようと考えるのであれば、GPIOブロックを使い、モータを動かし、動きの構造、リンク機構等を扱うエネルギー変換の内容とをしっかりカリキュラム編成すれば、実践は十分可能だと思います。
MESHワークショップ実施運営マニュアルで紹介されているような手順でプログラミング体験をすれば、その体験を通して小学生でもプログラミングについて理解することができ、プログラミング的思考を育むことは可能だと考えられます。今回の実践事例のように中学生を対象としても、あるいは高校の共通教科情報科でも実践可能だと思います。MESHに対して、プログラミング教材としての可能性を感じる機会になりました。 」
関連リンク:
ワークショップの運営マニュアル – MESHサポート | 遊び心を形にできる、アプリとつなげるブロック形状の電子ブロック