小学校 総合的な学習の時間「防災教育」

「地域と共に創る放射線・防災教育推進事業」の放射線教育・防災教育の実践協力校に指定されている江川小学校。防災教育を実施するにあたり、自然災害時に想定される地域の課題を解決する方法を発想する場面において、MESHをご活用いただきました。
授業設計の背景やどのような授業を展開されたのか、担当された先生にお話しを伺いました。
  • 先生   :栗木 健氏(研修主任)、加藤 寛章氏(6学年担任)、湯田 祥平氏(5学年担任)
  • 生徒   :5年生14名、6年生9名(2~4人 1グループ学習)
  • 実施時間 :本時45分、前時45分×5回
  • 指導案公開:あり
 

今回の授業を実施した背景は?

本校は福島県の令和2年度事業「地域と共に創る放射線・防災教育推進事業」の放射線教育・防災教育の実践協力校に指定されました。
下郷町は、2019年10月の台風19号で人的な被害はなかったものの、幹線道路や田畑への土砂流入など、生活に大きな影響が出ました。本学区においても避難勧告後、土砂による道路の通行止めにより避難場所へ移動ができなくなるなどの問題が生じました。また、本校は土砂災害警戒地区に指定されており、自然災害の場合には、一刻も早く避難行動をしなければならない環境にあります。そこで、防災教育を通して、自分たちが住んでいる地域の現状を知り、自然災害時に自分で考え判断し、行動できる児童や、自分達が地域を守っていくという思いをもつことができる児童を育てていきたいと考えました。
災害時に、人間ができる事には限界があります。東日本大震災では、川や海の水位の変化を見に行ったり、津波の避難を呼びかけたりしていた方々が犠牲になりました。命を守るために、情報機器やシステムを有効に活用することは、Society5.0時代の防災教育において必要不可欠であると考えています。
本校は、令和元年度に、福島県の「未来へはばたけ!イノベーション育成事業」の「スーパー・サイエンス・エレメンタリースクール」に指定され、理科の授業においてMESHを体験しました。MESHのセンサーは高性能であり、操作性もシンプルなので汎用性の高さを実感することができました。
防災教育を実施するにあたり、自然災害時に想定される地域の課題を解決する方法を発想する場面において、MESHは最適なツールであると思いました。子供たちの発想はさまざまで豊かです。中には現実的に難しいものもあるかもしれません。未来のテクノロジーで対応できることと、現在のテクノロジーで対応できることとの双方を検討しながら、子供たちが災害に遭った際に自ら命を守れる力を育成していきたいと思いMESHを活用しました。

授業テーマはどのように決めましたか?

想定外の災害が身の回りにいつ起こっても不思議ではない現代において、子供たちが「自分のいのちは自分で守る」ためには、一人一人が防災に関する資質・能力を高めなければなりません。安全・安心な生活を目指すことは、学校にとどまらず、地域社会においても同じことです。
本授業では、地域との連携により自分事として受け止めることができる防災教育と、地域の課題を解決していくプロセスを学ぶプログラミング教育を合わせた授業「いのちを守る学習」として行いました。

この授業のねらいは?

非常災害時は、さまざまな情報をいかに活用して(情報活用能力)避難行動につなげるかが大切だと考えられます。本授業では、避難時における地区の課題やこれまで学習した内容等の根拠をもとに、論理的な思考を働かせながら、よりよい判断や避難行動がとれる児童の育成を目指しました。
そこで、本時のねらいを「自分たちで考えた『MESH』を活用した避難方法を、さらに試行錯誤しながら改善していく活動を通して、論理的な思考や、地域住民としての防災意識を高めることができる。」と設定し、学習活動に取り組みました。ねらいに迫る過程で、子供たちが住んでいる地区を知り、これからの地域・社会・自分を想い描けるようになることが、学校としての願いでもあります。

MESHはどのように活用しましたか?

災害は、私たちが考えるよりはるかに想像を超える時もあります。また、地区の状況により課題が異なることから多面的な視点をもって行う避難への準備が必要になることも予想できます。それらの「もし」に応えるために、試行錯誤を伴う活動(プログラミング的思考)を通して、よりよい避難を目指し、防災への関心・意欲を高めて発想を広げることができる「MESH」の活用は、学習効果が期待できるものでした。
そこで、自分たちが暮らす地区の環境に応じた防災プログラムを「MESH」を活用して制作することで、子供たちの探求心や創造力・論理的思考力を育む授業づくりにつなげていきました。

用意した機材

使用機材/素材
  • MESH以外
    • 回路/工作実験キット
    • 発光比較キット
    • 蓄電実験 プログラミングボードミニ
    • 手回し発電機
    • 感度調整キャップ
    • ブロックカード
    • MESH GPIO用スイッチ

授業の様子

第1時 9/2(水)

講師:下郷町役場生活安全係 渡部 大樹 先生 自然災害について理解し、各地区で起こる可能性のある自然災害や各地区の避難場所の確認をする。
 

第2時 10/12(月)

講師:福島県立博物館  筑波 匡介 先生 避難所での生活について(クロスロードゲーム)
「トイレが汚れているけれど、道具もない。でも掃除する?しない?」
「おにぎりが100個しかないけれど、避難所に300名いる。配る?配らない。」
 

第3時 10/13(火)

ハザードマップを使って、地区ごとの危険箇所を確認し、そのような順番で避難行動をすれば、安全に避難することができるのか。また、避難する際の課題と解決方法について話し合う。
  1. 危険箇所の確認
  1. 避難行動の確認
  1. 避難する際の課題
  1. 課題の解決方法
 

第4時 10/15(木)

自分たちの地区を災害から守る未来の江川地区の姿を考え、『MESH』を活用してプログラミングをする。
 

第5時 10/19(月)

講師:江川地区行政区長さん
地区ごとに考えた避難行動を地区長に提案し、地区の人たちが早く安全に避難する方法について話し合う。
 

第6時(本時) 10/21(水)

前時に考えた『MESH』を用いたプログラミングをもとに、さらに安全に避難したり災害から身を守ったりする方法を考える。
 

第7時 11/16(月)

講師:江川地区行政区長さん
『MESH』を活用したプログラミングや、地区ごとに考えた避難行動を地区長に紹介する。
 

第8時 11/16(月)

講師:東北大学 教授 佐藤 健 先生
演題「地域の自然や社会を学び、地域の災害リスクを知る」

どんなことを工夫しましたか?

プログラミングは目的ではなく課題解決のためのツールの1つであると捉えています。プログラムを作ることやMESHを使用することが目的とならないように、日頃からMESHに触れることができる環境を整えました。そうすることで、地域の課題を解決する方法を考える際、子供たちから、自然と「MESHが使えるのではないか」という意見がでてきました。子供たちは、課題解決に向けて「こういうものを作りたい」という思いがあり、「それを実現するためには何ができればいいのだろう」という発想につなげようとします。そこで、子供の主体的な学びができるよう以下のような工夫をしてきました。
 

(1)学習意欲を高める設定

各地区の危険箇所や避難場所は、児童が住んでいる地区ごとに全校生で確認しました。地区の現状について情報交換をすることで、低学年の視点も取り入れることができました。本時では、低学年の視点を含めたことで、地区のためにどのような行動をすることが望ましいかを思考するきっかけとなり、主体的に学習に取組むことができました。
また、地区ごとの活動場所を確保し、学習意欲の高まりと創造的な思考の積み上げができるようにしました。そのため、各地区には、タブレットと「MESH」を1台ずつ配置しました。
ハザードマップをもとにした、地区ごとの危険箇所や避難場所の確認
ハザードマップをもとにした、地区ごとの危険箇所や避難場所の確認
 

(2)児童間での学びの共有

地区の地形的な課題と避難時の課題を分けて付箋で明記することで、「早く安全に避難する」目的を見失わずに児童間で共有することができました。地区が抱える課題は違っていても、「いのちを守る」行動には変わりはありません。また、同じ目的をもつ子供たちが、他の地区の考えも参考にできるよう発表の場を設定しました。避難行動について考えた内容を論理的に自分の言葉として説明し、児童間でも対話することが、さらなる創造の深まりにつながりました。
 

(3)地域の一員としての役割を与える

避難の課題を考える際には、保護者の意識アンケート、各地区長からの話、町役場生活安全係の方の話など大人との対話を大切にしてきました。地区ごとのさまざまな歴史を踏まえながら、これまで地区の人々が自然災害に向き合ってきたことを知ることを通して、より地区を大切に思い、課題に向き合っていく児童の育成につなげることができました。さらに、児童自身も地域の一員としての自覚をもち、課題の解決方法について区長に提案する活動も行いました。
行政区長と行った地区の避難の課題についての話し合い
行政区長と行った地区の避難の課題についての話し合い
 

(4)地区の課題を表した地図や避難手順カード

子供たちが住む地区の課題や現状を、ハザードマップや家庭への意識調査で知ることができました。また、これまで子供たちが感じていた危険箇所などを地図で確認しました。基本的な避難行動はカードに表すことで、地区ごとに避難の手順や行動が違うことに気付くことができました。避難する際の課題は赤い付箋に書き、それぞれの課題に合わせた多種多様な解決策は青い付箋に記入して、地図に貼りました。「何のために」「どのように」「どうしたいのか」と子供たちに問いかけながら心を揺さぶり、子供の創造力をさらに深めていきました。
地区の課題(赤い付箋)と解決策(青い付箋)、 避難の行動を記したカード、ハザードマップ
地区の課題(赤い付箋)と解決策(青い付箋)、 避難の行動を記したカード、ハザードマップ

児童が開発した作品

地震による土砂崩れや火災から学校を守るために考えたプログラム
地震による土砂崩れや火災から学校を守るために考えたプログラム
洪水と土砂崩れを想定した、水量が多くなったときに避難ができるプログラム
洪水と土砂崩れを想定した、水量が多くなったときに避難ができるプログラム

今回授業でMESHを使用された感想を教えてください

令和元年度は、5・6年生の理科の授業でMESHを活用させていただきました。
学習指導要領が全面実施となり、新しい理科の教科書にはMESHの活用が紹介されているものもあります。そうした中、総合的な学習の時間に、また、防災教育としてMESHを活用することは、私たちにとっては大きな挑戦でした。
防災教育において、各教科で育まれる思考力を基盤としながら、プログラミング教育で育成する資質・能力のひとつである「プログラミング的思考」を育成することは、子供たちが将来どのような職業に就いても論理的に物事を解決していく「生きる力」になると、私たちは考えています。しかし、防災教育とMESHをどのようにつなげていけばよいのか、私たち教師も試行錯誤していました。そうした中、たどりついた答えは、課題を「自分事」にすることでした。自分の住んでいる地区の現状と課題を知ることから始まった「いのちを守る学習」は、MESHを使うことが目的ではなく、課題を解決するための手段としてMESHを使うことに自然とつながっていきました。そのため、「自分の地域の課題を解決するために、MESHを使いたい。」という、子供の声が出るまでに時間はかかりませんでした。
MESHは、防災教育の観点からも、自分の地域の課題を解決したいという思いを、具体的な形として表現してくれました。また、子供の学習への意欲をどんどん高めていきました。そうした意味からも、防災教育の中でMESHを活用したことは、とても有意義だったと考えます。今回の学習で身に付けた資質・能力を基礎として、予測できない自然災害等の課題に対しても、どのように向き合い、どのように解決していくかを考え行動し、未来を創造できるたくましい子供たちに育ってほしいと願っています。