2021年1月23日(土)に開催された「未来の体育共創サミット2021」で、MESH×体育をテーマにした「ICTを活用して運動のおもしろさを拡張させよう!」のオンラインセッションが行われました。
前半は、参加者のみなさんにMESHの概要や機能を紹介し、後半では千葉大学教育学部附属小学校 永末大輔教諭から、6年生の体育でのプログラミングを使った授業の取り組みについて紹介いただきました。その後、参加者同士のグループセッションでは、体育の授業のどのような場面で活用したいか、どのようにICTと体育の距離感を埋めていくかなど、さまざまな視点から意見交換が行われました。
「つくる」を子どもたちが実践する授業デザイン
永末教諭ははじめに、これまでの体育でのICTの活用方法を振り返りました。動画を参考にして運動に取り組んだり、作戦ボードとして使用したりするなどの評価ツールとしての活用だけでなく、近年ではオンラインによる遠隔授業や、VRやARなど、先生が既存のツールを用意して授業を実践している現状を話しました。
そこで、永末教諭は「スポーツを自ら考えて作り出す」というスポーツ共創の視点から、ICTを活用して、「子どもたちがツールを使って、自ら何かを作り出す授業ができないか」を考え、MESHを使った授業を計画することとなりました。
MESHの活用にあたり、プログラミング教育で懸念している「何のためにプログラミングを使うのか」「実生活にどうやって役立つのか」を子どもたちが想像し難い点を、授業設計時の課題として取り上げました。そこで、実際の授業では「体育のおもしろさを拡張させるために、MESHを使ってアイデアを考えて、体育の授業に実装する」という目的で実践していきました。
永末教諭による体育の実践は今回で2回目となり、初めての実践は小学校1年生での取組でした。(詳細はページ末尾をご覧ください。)
2回目となる今回の実践は、永末教諭が担当する6年生の子どもたちで、すでに他教科で行われていたプログラミングの授業により、MESHの操作方法など基本的な知識を身につけていました。そのため最初から「運動や遊びに使えるツールを開発する」というテーマで、「つくる→試す→修正する」というサイクルを繰り返しながら、MESHを使った運動や遊びに使えるアイデアを制作しました。
実際に考えたアイデアを試している映像には、教室や廊下でグループに分かれ、屈伸運動や縄跳びの回数をカウントするプログラムや、準備運動の音声を自動で流すプログラムを試している子どもたちの姿が。
中には、縄跳びを途中でやめると怒られる、というプログラムを構築した子どもたちも。
「このプログラムは振動が止まって5秒経つと自動で音声を再生する、という命令と、振動を感知している間はそのプログラムを停止する、という命令の組み合わせです。『振動が止まったら音声が流れる』という機能をどうしたら実現できるか? と子どもたちが考えた結果、このようなプログラムが出来上がりました」
永末教諭や参加者も驚いたのが、鬼ごっこのプログラミング。鬼ごっこを数回繰り返して、捕まった回数が一番少なかったチームが勝つ、という宝探しの要素を組み合わせたオリジナルのゲームを作りました。
以下のゲームのルールは、子どもたちが自ら考えました。
・鬼に捕まったら、LEDブロックが置かれた牢屋で待機する
・牢屋にいる仲間を助け出すには、さまざまな場所に隠されたボタンブロックを見つけ、ボタンを押してLEDブロックを光らせる必要がある
・LEDブロックが光るとカウンターブロックが反応して捕まった回数としてカウントされる
・ボタンブロックは複数個隠されているが、中には一つだけ温度ブロックが隠されている
・温度ブロックを見つけて、設定された温度になるまで手で温めれば、カウントはリセットすることができる
子どもたちは縄跳びや鬼ごっこのように、身近な運動や遊びにMESHのセンサーブロックやボタンブロックなどを取り入れることで、新しい楽しみ方を作り出していきました。この体験が、生活の中でのプログラミングの必要性を実感することにもつながりました。
体育にプログラミングを実装して感じた成果と課題
体育の授業に実装してみたら、想定外の事象によりうまくいかなかった、という例もありました。例えば大人数でのシャトルランを人感センサーで測定するプログラムでは、他のグループのセンサーとの距離が近いとそちらにも反応してしまい、うまく回数をカウントできない、という課題が生まれました。
「エラーを改善するために、子どもたちがブロックの感度や位置を調整して、自分たちで考えながらプログラムを修正していく、ということに大きな意味があると思います。小さい頃から機械やICTに触れていると『機械は万能だ』と思いがちですが、子どもたち自身がトライアンドエラーを繰り返すことで、『プログラミングって日常生活ではこんな風に役に立つんだ』とか『学校生活のこの場面でMESHを活かせるんじゃない?』と気づくことができたと思います」
こうしたトライアンドエラーができたことに加えて、永末教諭はMESHを体育の授業に活用して感じた成果として、MESHというツールを取り入れることによって、センサーやボタンを活用した鬼ごっこや宝探しなど、既存の遊びを子どもたちが独自に工夫することができた、という点も挙げました。
ここで参加者から「MESHの管理で工夫されたことは?」という質問が。永末教諭は授業の前後にブロックが全て揃っているかを子どもたちに確認を促していました。「今回の実践でブロックを紛失してしまうということはありませんでしたが、誤って子供がトイレに持ち込んで落としてしまったというトラブルはありました(笑)。機械の耐久性という点では、映像のように子どもが身につけて動き回ったり走ったりする程度では壊れることはなかったです。ぜひ授業で子どもたちに持たせて、ブロックの耐久性を体感してみてください」
たくさんの人に活用例を作って欲しい
実践の紹介後は、参加者をいくつかのグループに分け、永末教諭の発表を受けた感想やMESHをどのように体育に導入してみたいかなどを話し合う時間となりました。
グループセッションを終えた後、各グループで出たアイデアや疑問点などを発表してもらいました。
「子どもたち同士で競技のジャッジをするとき、例えば『どっちのチームが点数を取った?』などと判定をするときにMESHが使えるのでは」という意見や、教員の参加者からは「まずは自分たちが使ってみたい」とデモ機の使用に興味を持ったという声も上がりました。一方で、高齢の教員や管理職が多かったり、ICTに慣れていない教員が多かったり、環境によっては導入への理解がなかなか進まない、という悩みも聞こえてきましたが、永末先生はまずは試しに機材に触れることが大切だと伝えました。
「体育にMESHを取り入れているのは、現時点では恐らく僕しかいないので、いろいろな学校でたくさんの先生に使っていただかないと、良い点も問題点も明らかになっていきません。MESHをトライアルできる裾野をどんどん広げていっていただけるとうれしいです」