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実践例|小1 体育「『体育×ICT』で運動のおもしろさを拡張させる!」千葉大学教育学部附属小学校

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「学び合い、喜び・感動のある学校を創造し、確かな学力と心豊かに生きる力を育てよう」を教育目標として掲げる千葉大学教育学部附属小学校。
早期よりICTを活用した次世代教育に取り組むとともに、プログラミング教育においても、さまざまなツールを活用して実践研究をされてきました。また、その研究成果や有用性については、学会や様々なメディアを通じて情報発信されております。
今回、ICTを活用した授業の実践研究において、学校発行の教育情報誌『はぴらん』に掲載された、MESHを活用した体育でのプログラミング授業の実践記事について
転載の承諾をいただきましたので下記にてご紹介します。

 

 

来年度から完全実施されるプログラミング教育。
全ての教科でプログラミング的思考を育むことが大切と言われています。
しかし、目的意識の低いプログラミング教育では、ただやっているだけに
なってしまいます。
体育の学習もこれまで通りでは時代の流れについていけなくなるかもしれません。
そんなプログラミング教育と体育が出会うとどんな化学反応がおきるのでしょうか。

 

カリキュラム・マネジメントの意図

体育科の側面から

ここ最近とまではいきませんが、体育の学習においてもICT機器の活用は
広くされつつある現状です。しかし、利活用の状況を見てみると、
「お手本の動画をタブレットで見て参考にする」
「動画で撮影し、自分の姿を確認する」
「作戦ボードの代わりにタブレットを使い、情報を蓄積する」など、
どちらかというと教材の補助的なもの(デジタル教科書的なもの)や、評価に活用できるツールとして使われることが多いというか、ほとんどそうなのではないでしょうか。

そこで、今回は、
『体育の学習がよりおもしろくなるツールとしてICTを活用する』
ことを主眼にして、授業づくりをしてみようと考えました。

 

プログラミング学習の側面から

そもそも、プログラミング教育とは「子供たちに、コンピュータに意図した処理を行うように指示することができるということを体験させながら、将来どのような職業に就くとしても、時代を超えて普遍的に求められる力としての ”プログラミング的思考" などを育成するもの」と文科省の資料に記されています。

プログラミング学習の目的は、簡潔に言うと「プログラミング的思考を育む」ことだと言えます。
では、プログラミング的思考ってどんな思考なのでしょうか。

同じ資料には、「自分が意図する一連の活動を実現するために、どのような動きの組合せが必要であり、一つ一つの動きに対応した記号を、どのように組み合わせたらいいのか、記号の組合せをどのように改善していけば、より意図した活動に近づくのか、といったことを論理的に考えていく力」とあります。

一般的にイメージされやすいプログラミングって、難しい数式を打ち込んでいく専門的な言語で、「そんなもの教えられないよ」というような内容なのではないでしょうか。
しかし、小学生向けのプログラミング教材は、ジグソーパズルを組み立てるような扱いやすいものがほとんどです。そうしたプログラミングを子どもたちと共に楽しく体験した上で、「どう命令したら、どう実行されるのか」を考える力を育むという視点なのかなと捉えることができます。
つまり、『問題解決のための手段を増やす』という視点なのではないでしょうか。

専門的な数式なんて1 年生に理解できないだろうけど、「命令―実行」の仕組みなら、使う教材によっては理解できると考えました。
また、プログラミング教育をすることが目的化してしまい、何のために行うのか
という視点が抜けてしまいがちな分野でもあるなあと思っています。
(※本実践では、生活科の教材の一つという位置づけで実践を行っています。)

 

子どもに必要感をいかにもたせるのか

上記のような側面から、2つの教科を始めは別々に学習していき、何かの「必要感 ( 今回で言えば、おもしろさを広げる ) 」を子どもたちに感じさせた上で取り組むことを大切に授業デザインしました。

 

実践の授業デザイン

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授業の実際

1.単元名

「リズムをかんじておどろう」(体育)
「MESHをつかってあそぼう」(プログラミング)

2.実践時期

11月~12月

3.ねらい

・ロック調やサンバ調などの様々な曲にのり、即興的に踊る。(体育)
・プログラミングの仕組みについて理解し、自分で装置を使った遊びをつくることができる。
(※教科の枠組みとしては生活科でカウント)

 

実践の内容

体育の授業

子どもたちにとっては運動会のリズムダンス以外では初めての表現領域の学習です。
低学年のリズムダンス遊びは実はとても大切で、年齢が進んでいくとどうしても恥ずかしさが出てしまい、即興的にリズムを感じて踊ることが難しくなってしまいます。
指導要領上は中学年の内容に少しなってしまう部分はありますが、子どもたちの実態から1年生でリズムダンス遊びを取り入れることにしました。

 

1時間目

リズムダンス遊びは、初めての学習なので、
「リズムにのるってどこを動かすといいか」という問いから始めました。
子どもたち全員で円を作り、教師の指示でいろいろな部位(頭、腕、 腰、お尻、足など)を音楽に合わせて意識的に動かす活動を行いました。

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写真:お尻を意識して動かす子どもたち
最後に、「リズムにのるときは、おへそを意識して動かそう」という視点を
教師が与え、活動を終了しました。

 

2時間目

準備運動で毎回取り入れている鬼遊び。リズムダンス遊びに合わせて工夫をしました。
音楽が流れている間は普通に鬼ごっこをするのですが、音楽が止まったときには、
ポーズをして止まるというルールにしました。
子どもたちは思い思いに工夫しポーズを取ります。

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写真:鬼ごっこの途中にポーズをとる子どもたち


リズムダンス遊びの活動では、グループごとの円形ダンスを取り入れました。
円形ダンスとは、グループで円になり、真ん中に一人立ちます。
その一人の動き(踊り)をみんなで真似します。途中で誰かにタッチし、交代します。
得意な子どもはたくさん踊れるし、苦手な子どもにとっては真似することで、
動きの材料を得ることができます。
円形ダンスを通して、曲調に合わせたリズムののりや、動きの工夫を
子どもたちは感じ、気づきながら動くことができました。

f:id:meshprj-author:20200407112833j:plain写真:円形ダンスで踊りを楽しむ子どもたち

 

3、4時間目

準備運動の鬼遊びの後、3時間目からはペアで踊ることにしました。ペアで踊るといっても、 同じ動きをしなくてはいけない訳ではありません。
お互いを感じながら、別々に踊ったり、一緒に踊ったりと即興的に踊っていいこと、どこで踊るか、はじめと終わりを意識することなどを確認し、いざダンス開始です。

ロック調、サンバ調、沖縄民謡、ミュージカルソングなど、いろいろな曲を踊る中でリズムの違いを感じ、動きに合わせていくことができるようになりました。

子どもたちは即興的にリズムを感じ取り、動きを工夫するようになってきています。ロックでは縦のりで激しく、サンバでは、リズム良く、沖縄調では、手をゆらゆらさせながらゆっくりと。直感的に動くことのできる低学年ならではの動きの工夫がたくさん見られました。

f:id:meshprj-author:20200407112902j:plain写真:リズムを感じながら踊る子どもたち その1

f:id:meshprj-author:20200407112917j:plain写真:リズムを感じながら踊る子どもたち その2

 

プログラミングの授業

子どもたちにとっては初めてのプログラミング学習です。難しいことをさせて嫌な印象を与えないために、やさしい課題から始めることが大切です。授業の導入として、パソコンの使い方を覚えました。
電源の入れ方、マウスの接続方法、マウスの使い方など、基本的なことを一つずつ丁寧に理解しました。また、「コーダブル」というソフトを使い、「プログラムとは,命令することだ」ということを直感的に理解しました。簡単なゲームなので、子どもたちの「もっとやりたい」という欲求を高めることができました。

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写真:専科教員によるパソコンの使い方のレクチャー

 

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写真:コーダブルで遊ぶ子ども


MESHの学習 1時間目

プログラミング学習の教材であるMESHを使って、いろいろな遊び道具を作成しました。はじめに、専科教員から、簡単な使い方の説明をし、実際にいくつかの「ミッションをクリアしよう」という課題を提示しました。

子どもたちに与えたミッションは、

・レストランの呼び出しボタンをつくる
(ボタンを押すとLEDが光る)

・お宝を守るセンサーをつくる
(人が通ると感知してLEDが光る)

・不思議なお宝をつくる
(ブロックを振ると、LEDが光る) 以上の3つです。

MESHは直感的に操作できるので、子どもたちは考えながらすべてのミッションをクリアすることができました。操作していく中で、教師が教えていない機能にも気づき、②のミッションでは、LEDが光るだけではなく、反応してカメラの撮影する機能まで実装することのできたグループもありました。

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写真:グループごとに機材を触ってみる

 

MESHの学習 2時間目

前回の取り組みを生かし、次のミッションを教師から与えました。

・ボタンを1回押したらライトが点いて、ボタンを長押ししたら点滅する装置をつくる

・センサーを何回振ったかカウントできるようにする

・これまでの流れで作った装置から、さらに追加して30回振ったらライトが点滅するように改造する

最後に、ボタンを押したらカウントがリセットされるようにする

すべてのグループがミッションをクリアできた訳ではありませんが、他のグループの設計(レシピ)を見ると「なるほど」と共感することができていました。
共感できるということは、ある程度、MESHの仕組みを理解したということだと考えられます。

f:id:meshprj-author:20200407113042j:plain写真:グループで相談しながらレシピを考える

 

MESHの学習 3、4時間目

これまでのミッションでつくった経験を生かし、最終ミッションとして
「これまで覚えた機能を生かし、遊べる道具をつくる」という課題を子どもたちに与えました。
ある程度の工夫する材料やヒントは、これまでのミッションをクリアしていく中で
習得してきていたため、子どもたちは意気揚々としています。グループで相談しながら考える様子が見られました。子どもたちが1回の活動で考えられた遊びは主に以下のような装置です。

・ボタンを押すと写真が撮れる装置(リモコンで写真を撮る)
・センサーに引っ掛かると音が鳴る装置(引っ掛からないように移動する遊び)
・センサーを付けて、たくさん踊ると拍手がなる装置
 (カウンターが一定回数になると音が鳴る仕組み)


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写真:写真を撮る装置を試す様子

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写真:踊ってカウンターを動かす装置を試す様子

1回目に試作したものを次の時間にブラッシュアップしました。
他のグループの装置を真似したいグループはレシピを見せてもらい、参考にするよう教師側から促しました。子どもたちが主に取り組んだのが、以下の3 つです。

・遠隔でボタンを押すと、ライトがついたり、音が鳴ったりして、最後にカメラで写真を撮る装置

・動きのブロックを何回か動かし、カウントする。カウントが一定回数になったところで音が鳴る、ライトが点灯する、カメラで写真を撮る装置

・人感センサーを使い、センサーに引っ掛かると写真が取られる装置

これらの装置をグループごとに考え、レシピを 考えていました。
また、MESHを入れて装着するリストバンドも用意したので、カウントする際に実際に入れて試すグループもありました。

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写真:ボタンを使い、遠隔で写真撮影をする子ども
※真ん中の子どもの右手にボタンがある

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写真:リストバンドを装着し、カウントが動くか試す子ども

 

いよいよ体育の授業にプログラミングでつくった装置を実装!!

これまでの活動から、何となく「これはダンスに使えそうだ」とか「これは鬼ごっこで使えそうだ」という声が子どもたちから上がっていました。
そこで、実際に教師から「MESHを体育の授業(リズムダンス)で使ってみよう」という声掛けをしました。子どもたちから出てきたアイディアは以下の通りです。

・フリフリカウンター
何回動いたかをカウントし、一定回数に達すると音が鳴ったり、ライトが点灯したりする装置

・ピカピカセンサー
動いている間、ライトが点灯する装置

その他リズムダンス以外にも使えそうだということで、縄跳びに使ってみたり、鬼ごっこで使ってみたりといろいろと試す様子が見られました。

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写真:ピカピカセンサーを装着し、レシピを試す様子
※帽子にライトが着けられています。

次につくった装置を実装し、体育館で試すことになりました。
体育館では,準備運動から始め、リズムダンスの中でICTを使って運動を楽しみました。ダンスがリズムにのって踊れているかをセンサーで確認したり、写真を撮ったりしている姿が見られました。
子どもたちからは「リズムによってカウントされるスピードが違う」「センサーが光って踊れていることがわかった」などの感想が挙がりました。

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写真:iPadを持ってリズムを確認する様子

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写真:友達の様子を撮影する様子

 

実践を振り返って

体育科教員の立場から

これまでの既存の ICT 活用方法だけではなく、子どもたちが発見した機能を体育の授業に実装することにより、運動の新たな一面の可視化や、おもしろさの拡張する様子が見られました。一方、まだ体育の授業においての機器の取り扱いに慣れていないため、授業の流れが滞ってしまう場面もありました。
今後も継続して取り組むことで、子どもたちが ICT のある体育に慣れていき、よりおもしろさを拡張できる授業が展開できると考えられます。
1回きりで終わりにするのではなく、継続して活用方法を考えていくことで、意味のあるプログラミング学習が体育においても実現できるという期待のもてる実践となりました。

 

ICT 専科教員の立場から

「ICT 活用が目的ではなく手段として…」という話は、これまでもよく言われてきたことでした。紙幅の都合上詳しくは書ききれませんでしたが、児童自身も ICT を課題解決の手段として活用することを自覚できるよう、学級経営上の工夫も多くあったと思います。「運動のおもしろさを拡張させる」ためには、教師たち同士でも面白い気持ちを持つことが必要なはずです。
こうした挑戦的な授業開発を通して、カリキュラム・マネジメントや ICT 活用のあり方を改善していくことを今後も継続したいと思います。


今後、同校は、公益財団法人パナソニック教育財団の「2020年度(第46回)実践研究助成 助成校」として、「プログラミングの体験を取り入れた体育科における表現運動の授業開発」を研究課題として掲げて、今回の実践を学年を広げたり、校内へ普及したりするなど、更なる挑戦に取り組む予定です。